踊れ月光『アネモネ』

眩い光と共に現れるのは金色の衣を纏った可憐な乙女。翠玉色の美しい瞳、一筋の橙色が入る、緑の波打つ長髪。雲のようにふわふわとした重量感のある大きな翼と、小さな翼のような耳が印象的だ。彼女は…癒しのジュア。女神だ。"願い"に答え。皆が望む姿を形成し。地上の生き物と同じ肉の身体を得て、降臨したのだ。

それは幼い少女だったものだ。すべてを飲み込み、嚙み砕かんと大きく開いた口。ギョロギョロと動くひとつ目は飢えた獣のように血走っており。隆々とした巨大な両腕に捕まれたら、一巻の終わりだろう。その怪物の名は暴蝕の魔女《ディールミィル》だ。

アネモネ「最近ぶりだな。アルハザードよ」 アルハザード「そうね。貴方の顔は見慣れてしまって、喜びも驚きも感じないわね」 アネモネ「冷たいなぁ。雪が静かに降る夜、2人きりで。隠すべきものを見せ合い、熱いひと時を共にした仲じゃないか」

エリザ「あ…このぬいぐるみ……」 闇の中から1体2体と現れる大きなぬいぐるみ。とてとて、と歩く姿は可愛らしく。けれど、どこか不気味で…それもそのはず、この哀れな玩具は人間だったのだ。魂を囚われ、永遠と思えるほどの月日の間、魔女の玩具として弄ばれ続けられた人間。

アルハザード「久しぶりね。待っていたわ」 寒々とした雪原の中にひっそりと存在する小屋。扉を開くと、心地よい音が響く暖炉の熱気と共に、静かな魔女の声が出迎えた。突然の訪問に驚いた様子は無く。まるで今日、吸血鬼が訪れるのをわかっていたかのようだ。

ステンドグラスを通した色鮮やかな光の下。月のように淡く光る金の三つ編みを垂らした背中は、静かに祈りを捧げていた。 マリー「………」 アネモネ「…吸血鬼が作った大聖堂でお祈りとは、変わったことをする」

うららかな眠気誘う陽の光、心地よい風に木々がざわめく森には、暗い色に沈む沼地が広がっていた。そんな風景の中に、不自然なほど、蓋を開けた棺桶が突然と置かれていた。ざくざくと草の根を分けて、進む足音はそこで止まり。青い瞳が棺桶の中を覗き込むと、吸血鬼が横たわっており。物音か視線か、こちらに気付いた様子で、薄く目蓋を開き。やってきた友人を見つめた。